あらすじ
王都の片隅で時計修理の店を営むノエル、二十三歳。亡き父は王室付きの時計師でした。組合は女に親方の座を認めてくれないけれど、腕だけは父からぜんぶ受け継いだ自負があります。
ある日、店に黒塗りの馬車が来ました。行き先はランベール公爵邸。執事が言うには、あのお屋敷では三年前から、大小三十七台の時計がすべて止まっているのだとか。
しかも、当主の公爵様のご依頼はこうでした。
「直せ。ただし、動かすな」
直すのに、動かさない。時計師への依頼として、これほど奇妙なものはありません。三十七台の文字盤は、すべて同じ時刻を指したまま――午後四時十二分。
止まった時計には、止まった理由があります。ならば、動けない人にも。
ぜんまいと歯車と、たったひとつの懐中時計のお話です。