あらすじ
没落子爵家の娘リゼットの店は、新しいドレスを作らない。看板にはこうある。
『仕立て直し承ります――三年前のドレス、今年の流行に』
質素倹約のご時世、お直しの腕一本で王都の奥様方を支えるリゼットには、職人としての持論がある。ドレスは人生の記録だ。ほどけば、ぜんぶ書いてある。お腹周りを二度出した跡は二人のお子の分。袖口の擦り切れは、右腕で子を抱く癖。急いで黒に染め直した跡は、突然の喪。
――だから、ほどけば嘘も見つかる。
ある日、店に無骨な大男が現れる。ロメール公爵、その人だった。依頼は妹君のドレス十九着の「検分」。嫁ぎ先の侯爵家から「稀代の浪費家」と糾弾され、離縁と持参金没収を突きつけられた妹君の、身の潔白を証明できるのは――縫い目だけ。
針と糸とお直し台帳で挑む、静かな逆転劇と、その後の恋のお話です。