あらすじ
毒と薬を分けるのは、匙一杯。同じ草が、匙の加減ひとつで人を殺しもし、人を生かしもする。それを毎朝たしかめていたのが、男爵令嬢で薬師のリーゼだと、プレルの町の誰も知らなかった。
「毒草いじりの出来損ない」と嗤われながら、リーゼは井戸端で言った。「これは病の兆しではありません。毒です」――誰も信じなかった。婚約者のダミアンは「薬なんぞ町医者で十分だ」と鼻で笑い、衆目のなかで彼女を破棄して町から追い出した。
追放先の下流で、リーゼは同じく“役立たず”と切られた医師アルヴィスに出会う。倒れてゆく村人の唇の痺れ、遅く冷たい脈――ひと目で分かった。(これは疫病ではない。水に、鳥兜が盛られている)。だが彼女がいなくなった上流の町では、“疫病”が、ふた月かけて静かに人を呑みはじめていた。
誰が、なぜ、井戸に毒を。町を封じれば町が死ぬ賭けの中、リーゼは井戸端へ戻る。暴くべき真犯人には、彼なりの正義があった。捨てた側が腕の値に気づいて後悔し、芯ある悪を弔い、同じ傷で結ばれた恋がひとつ芽吹く――痛快で、あたたかい、薬師令嬢の逆転譚。