あらすじ
二十一歳の夏坂かほと、二十六歳の竹田雪希。
東京の狭い部屋で暮らす二人は、恋人になって三年、正式にパートナーと名乗るようになって一年が経っていた。
けれど二人は、「家族」という言葉が嫌いだった。
家族だから許せ。
家族だから我慢しろ。
家族なら分かるはずだ。
その言葉に傷つけられてきた二人は、自分たちだけの家族の形を作ろうとしていた。
ある夏、かほは雪希を故郷・岩手県奥州市水沢へ連れて帰る。
水沢駅に鳴り響く南部風鈴。
奥州水沢夏祭りの熱気。
地元の居酒屋「鬼剣舞」で開かれた、雪希の歓迎会。
父、母、弟を前に、かほは初めて雪希を「私のパートナー」と紹介する。
戸惑い、沈黙、衝突。
それでも雪希は、かほの家族と向き合おうとする。
やがて雪希は、かほを自分の「嫁」と呼ぶようになった。
数週間後、二人は雪希の故郷に近い沖縄県与那原町を訪れる。
与那原大綱曳祭りで、巨大な綱を握る二人。
一人では動かせないもの。
二人でも変えられないもの。
それでも同じ方向へ力を込め、離れそうな手を握り直す。
これは、愛だけでは救えない現実の中で、それでも家族になろうとした二人の夏の物語。
本作品は、実際の土地や夏祭り、作者の記憶をモチーフに、人物や会話、出来事を再構成したフィクションです。