あらすじ

妻に先立たれて二年。七十二歳の家具職人・矢島宗一の趣味は、七十の齢で免許を取ったバイクだけが残った。休日ごとに山へ走り、林道の行き止まりで一杯のコーヒーを淹れる。なぜ行き止まりなのかは、考えたことがなかった。 十月のある日、帰り道で転倒し、足首を痛める。日没まであと一時間。宗一は無理をしない。五十年、無茶な納期は受けなかった男だ。装備を広げ、山で一夜を明かすと決めた。 杉の梢が円く切り取った夜空に、星が増えていく。夜半、南東から昇ってきたのは、空でいちばん明るい星——四十数年前、たった一度だけ妻と出かけたプラネタリウムで、彼女が名前を教えてくれた星だった。 不慮のビバークの一夜が、老職人にひとつの寸法を測らせる。五十年、他人の家の暮らしばかり測ってきた男が、一度も測ったことのなかったものを。

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カクヨム
カクヨム2026/07/15
  • 現在の作品シリウスはまっすぐ歩けない