あらすじ
『大人になったら、俺たちだけの秘密の城(基地)を完成させよう』
十年前の夏。 連日三十五度を超える猛暑の中、無敵だと信じていた十五歳の俺たち五人は、裏山の森で泥だらけになりながら「秘密基地」を作っていた。
あの頃、自分たちは特別な人間になれると疑っていなかった。
しかし、そんな輝かしい約束は夏の終わりの台風と共に吹き飛び、やがて五人の繋がりは静かにフェードアウトしていった。
――それから十年後。二十五歳の夏。
IT企業の末端で、理不尽な仕事に追われるしがないデバッガーとなった俺(翔)は、深夜のシステムトラブル検証のために地元を訪れていた。
少しの未練に急き立てられ、かつての「裏山」へ足を向けた俺を待っていたのは……容赦ない都市開発によってコンクリートで完全に埋め立てられた『24時間営業の無人コインランドリー』だった。
夢や思い出なんて、容赦ない社会の現実の前に、いとも簡単に上書き(アップデート)されてしまうのだ。
だが、冷めきった気分で雨宿りに入ったコインランドリーの軒先には。
泥のついた作業服を着て、疲れ切った顔で安酒(ストロングチューハイ)を煽る『見知らぬ底辺労働者の女』がうずくまっていた。
「――おっそいなあ、翔。待ち合わせから、十年とちょっと遅刻してんじゃん」
かつて無敵のリーダーだった彼女(夏紀)は、社会に摩耗しきったライン工になっていた。 立派な大人になんてなれなかった。夢なんて、何一つ叶わなかった。
土砂降りの雨の中、コンクリートの上に座り込んだ二人の、バカバカしくてみっともない『大人の過去の清算』が始まる。
緒賀けゐすさんの自主企画『夏休み短篇小説大賞2026』に参加しています。テーマは③10年前の夏を選びました。
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