あらすじ
血と力だけが価値を決める世界で、イザンはケメンを持たずに生まれた。
彼はアイン・アルワルという小さな村で育った。
けれど、幼い頃から誰も彼を名前で呼ぼうとはしなかった。人々にとって彼は、呪われた女の子であり、そしてアルマザが恐れる“扉”を開きかねない血を持った父の忘れ形見だった。
彼が望んでいたものは、ただひとつ。
呪いでも、過ちでもなく、ひとりの人間として生きること。
そんな彼の前に、影を操る男――シャミル・ガスカンが現れる。
過去を知りながら多くを語らないその男との出会いによって、イザンを縛っていた真実は少しずつ崩れ始める。
母ラヒールは、本当に呪われていたのか。
父ライスは、本当にただの罪人だったのか。
そしてイザンの中に流れる血は、本当に隠すべき恥なのか。
やがてイザンは騎士学院へ送られる。
そこには、炎、水、風、闇――それぞれの血と力を受け継いだ一族の子どもたちが集まっていた。
しかしイザンだけは、誰にも理解できるケメンを持っていなかった。
学院で出会う仲間たちは、彼の運命を変えていく。
同時に、彼の正体を知る前から危険視する者たちも現れ始める。
黒い幕が動き出し、ハガリスの禁じられた実験が影を落とし、最高司令官ハマンの存在がアルマザを覆うとき、イザンの名は小さな村の呪いから、帝国そのものが恐れる秘密へと変わっていく。
そして、すべてを変える事件が起こる。
血。
黒い煙。
そして、遅すぎた仲間たち。
身に覚えのない罪を背負わされたイザンは、ただ生き延びるだけでも、ただ復讐するだけでも足りない道へと押し出される。
閉ざされた扉の向こうには、誰にも聞かれなかった痛みがある。
闇に呑まれていく者たちがいる。
傷から生まれた敵がいる。
そして、理解できないものを「守るため」と称して焼き払ってきた都市がある。
イザンの力は、誰のものとも違う。
そして彼は、扉の向こうにいる者をひとり残していくことができない。
だからこれは、力を求める少年の物語ではない。
アルマザが目をそらし続けてきた問いと、ひとりの少年が向き合う物語だ。
イザンは、本当に止めるべき呪いなのか。
それとも、アルマザが葬ってきた真実の扉を開く――血の継承なのか。