あらすじ
魔王が倒れ、戦勝の鐘が鳴って十七日。二十一歳の勇者サラは帰らない。帰れないのではない。一人なら国境まで歩ける。それでも、崩れゆく旧魔王領の岩棚に、人間と魔族あわせて百四十七人を残しては帰らないのだ。
知らせを運んだ魔族の案内人から、荷車、靴、食料、治療師、夜番を交代できる人手が必要だと聞いた父マレクは、三台の荷車に帰還の道具を積み、古い救援の印「白結び」を掲げて国境を越える。五十二歳の元隊商頭に特別な戦闘力はない。頼れるのは、荷重を読み、馬と足を休ませ、危険なら荷を捨てる判断だけだ。
魔王の虚無炉が壊れた大地では、地中へ戻る魔力が「地脈反潮」となり、白い石と加工された鉄を呑み込んでいく。大反潮まで残りわずか。軍が動けない停戦下、十八キロの避難路を進めるのは、同じ速さでは歩けない百四十八人。国境のこちら側では、妻エルナが、人間の町へ進む者、魔族領へ戻る者、まだ決められない者を迎える場所を整えていく。再会した父娘は、守る者と守られる者を入れ替えながら、八つの列で揺れる大地を渡る。