あらすじ
大学生の佐伯蓮(さえき れん)が怪しげな求人票を頼りにたどり着いたのは、都会の路地裏にひっそりと佇む古びた洋館『あの世の忘れ物センター』だった。そこは、この世に未練を残して旅立った死者たちの「忘れ物」を一時的に保管し、遺された者へと引き渡す不思議な場所。風変わりな館長・菅野のもとでアルバイトとして働き始めた蓮は、日々持ち込まれる様々な忘れ物の整理を任される。
持ち込まれるのは、古びた財布や指輪といった形ある遺品だけではない。「約束」「謝罪」「初恋」「親への感謝」「子どもへの手紙」――人間がこの世に遺していく、目に見えない強烈な「心残り」もまた、淡い光を放つ結晶となって棚に並んでいた。
死者たちの不器用で、けれど温かい想いに触れていく中、蓮はある日、館の奥深くにある未分類エリアで一つの木箱を見つける。そこにあったのは、かつて自分と母親を捨てて蒸発した、憎むべき父親の忘れ物だった。
「あんな最低な男が遺した言い訳など、知りたくもない」と拒絶する蓮。しかし、箱の中に眠っていたのは、蓮が十歳の誕生日に何よりも欲しがっていたデジタルウォッチだった。そして、色褪せたニュースの切り抜きが、ある真実を告げる。父は家族を捨てて逃げたのではなく、プレゼントを買い、家へ戻る途中で不慮の事故に遭い亡くなっていたのだ。
十数年間抱き続けてきた憎しみの前提が崩れ去り、父の本当の愛情を知った蓮。しかし、センターには残酷なルールがあった。「忘れ物は、誰かがその想いを受け取ると、完全にこの世から消滅する」。
受け取れば父の魂は救われるが、手元にある唯一の形見は失われてしまう。父との最後のつながりを「形」として残すか、その「想い」を受け取って未来へ進むか。葛藤の末、蓮が選んだ「受け取り」の結末とは。これは、人と人が遺し合う、最も温かい愛の物語。