あらすじ

母・紗季を亡くし、生きる意味を見失った24歳の蓮(れん)。ある日彼は、ネットの噂を頼りに、すでに廃墟となったはずの「緑ヶ丘団地」へと足を運ぶ。そこは深夜二時になると、事故や事件、自殺などで帰る家を失った死者たちの魂が集まる不思議な団地だった。 蓮はそこで、生前と変わらぬ温もりを持つ亡き母と奇跡の再会を果たす。もう一度母のいる「我が家」を手に入れた歓喜に震える蓮。しかし、その団地には過酷なルールがあった。団地で一晩を過ごして目覚めるたび、現実世界では「一年」もの歳月が容赦なく流れ去ってしまうのだ。 現実の時間を削りながら、ボロボロになって団地へ通い詰める蓮。母の紗季は、老け込んでいく息子の姿に心を痛め、「もう来ちゃ駄目」と何度も涙ながらに拒絶する。母は、過去の血縁に執着するあまり自分の人生を捨てる蓮に、血の繋がりを超えて心を通わせる新たな「帰る場所(家族)」を現実で作ってほしいと願っていた。しかし、孤独な蓮は聞く耳を持たず、現実の仕事や友人をすべて失い、ついに肉体も老人の姿へと変わり果ててしまう。 そして訪れた、団地が消滅する最後の日。すっかり老いた蓮は、光の粒子となって消えゆく母と最後の夕食を共にする。母は蓮に「家族とは、血ではなく帰る場所。お母さんの言葉を、あなたの最後の帰る場所にしなさい」と、魂を救う最期の言葉を遺して朝光の中に消えていった。 現実世界に戻り、アパートの冷たい床の上で命の灯火を消そうとしている老人となった蓮。しかし彼の心は、かつてない安らぎに満ちていた。母の言葉という確かな「帰る場所」を胸に抱き、蓮は「ただいま」と呟いて、静かにその生涯を閉じるのだった。

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カクヨム
カクヨム2026/07/15
  • 現在の作品『夜だけ開く団地』