あらすじ
伯爵令嬢オディールの耳は、少しどうかしている。
大広間の端から端まで、ひそひそ話がぜんぶ聞こえる。扇の内側の悪口も、柱の陰の密談も、聞きたくなくても入ってくる。おかげでついた渾名が「地獄耳令嬢」。ご婦人方には警戒され、殿方には敬遠され、夜会での定位置はいつも、音の少ない バルコニーの隅。
そんなオディールには、誰にも言っていない習慣がある。
聞こえてしまった「悪意」を、先回りして潰しておくことだ。ワインに何か入れる相談が聞こえたら、給仕の動線を変えさせる。令嬢を庭に呼び出す罠が聞こえたら、その令嬢の母親に扇を届けに行かせる。誰にも気づかれず、誰にも感謝されず、今夜も舞踏会は何事もなく終わる。それでいい。
――はずだったのに。
「君だろう。この三年、夜会の『何事もなさ』を作っていたのは」
気づいた人が、いた。よりにもよって、王国騎士団の警備責任者が。
聞こえすぎる令嬢と、見えすぎる騎士様の、静かな夜会攻防戦です。