あらすじ
国境の穀倉領を治めるローエンフェルト伯爵家に、「出来損ない」と呼ばれる令嬢がいた。アルマ。だが徴税も、備蓄も、灌漑の水番も、国境守備隊への糧食手配も、七年、彼女が一人で回してきた。姉ジゼルが功績を横取りし、無能の噂を流していただけだ。
ある夜会。格上の婚約者が言い放つ。「帳簿しか取り柄のない出来損ないと、誰が添い遂げるか」。婚約破棄、そして追放。姉は嗤い、父は目をそらした。
アルマは、一言だけ告げて去る。「備蓄倉を、一度お確かめになって」。誰も聞かなかった。
行き倒れかけた国境の村で、アルマを拾ったのは、宰相府の巡察と名乗る若い男・セオだった。腕も素性も知られぬまま、崩れかけた土地で二人は互いを助け合う。彼が惹かれたのは、追放されてなお元領地の民を案じる、その人柄だった。
そして、ひと冬。彼女のいない穀倉領は、飢え、国境の城門を開けようとしていた。真っ白な帳簿を開いた姉が、膝をつく。帳簿は、噓をつかない。ただ、毎日つけた者にしか、読めないだけで。