あらすじ
崩壊する帰還門を前に、十四人の遠征隊は「一人を奈落へ残す」ための投票を行った。
読み上げられた十三票すべてに書かれていたのは、境界術師リディア・フェルゼンの名。
だが、リディアは自分の名前を書いていない。
「私は志願していません。死にたくない!」
そう叫ぶ彼女を、婚約者エドガーは背後から押さえつけ、聖女マリエルは帰還用の脱出石を奪った。
地上へ戻った十三人は、リディアが笑顔で自らを捧げたと証言する。
王国は彼女を「献身の聖女」として祀り、空の墓まで建てた。
けれど、リディアは奈落で生きていた。
地下で出会った少女フィア。厳重な枷につながれながら、他人の意思を決して奪わない角人族の男ラウル。そして、過去にも同じように置き去りにされ、歴史から消された人々の記録。
今回の置き去りは、偶然の事故ではない。
奪われた脱出石、偽造された一票、最初から使えなくされていた帰還装置。
境界術で地下と地上をつなぎ直し、リディアは自分を殺した英雄譚へ帰ってくる。
これは、誰かの美談にされた被害者が、消された拒絶と自分自身の人生を取り戻す物語。