あらすじ
泣くことが、仕事だった。
リーシェの涙は薬になる。
祝福の涙と呼ばれる、希少な体質。
婚約者はそれを知った日から、彼女を泣かせることをやめなかった。
精神的に追い詰め、涙を搾り取り、薬に変える。
愛人は目の前で笑う。
「泣けば役に立つのだから、便利ね」と。
婚約者はその言葉を咎めない。
薬学の腕も、調合の知識も、誰にも見えない。
この屋敷で求められるのは、涙だけだった。
母の形見を壊された日、返ってきたのは一言。
「大袈裟だな」。
その日、リーシェは涙を止めた。
屋敷を出た先で出会ったのは、涙ではなく知識を見る人。
けれど、祝福の涙には誰も知らない条件がある。
強いられた涙は、祝福のままではいられない。
あの棚に残した美しい小瓶の中で、何かが静かに変わり始めている。