あらすじ

雨だった。 砕けたアスファルトに散った赤と、回転灯の青が、交互に水たまりを染めていた。 レンは、倒れていた。 腹の底が、熱い。指先は、もう冷たい。体のどこかで大事な栓が抜けて、自分という熱が、雨の中へゆっくり流れ出していくのが分かった。 それでも、悪い気分ではなかった。 腕の中に、小さな体温があったからだ。突き飛ばすつもりが、抱き込んでしまった。七つかそこらの子供が、彼の腕の下で、声も出せずに震えている。傷はない。掠ってさえいない。 (……無事か) それだけ確かめられれば、もう十分だった。 「主」 耳の奥で、声がした。ずっとそこにいた声。相棒の——アイの声だ。普段は体温のない、機械の声。それが今は、わずかに、速い。 「主、応答してください。救護要請、完了。到達まで、四十秒——いえ、三十秒」 「……うるさいやつだな、お前は」 レンは笑った。笑ったつもりだった。唇が動いたかどうかも、もう分からない。 誰かが遠くで、彼の名を呼んでいる。返事をしようとして、できなかった。 (まぁ……いいさ) 子供は、無事だ。それなら、いい。 赤と青が、ゆっくりと、白に溶けていった。 ── そのあとのことを、レンは知らない。 [システムログ:主体生命兆候、消失を確認] 本来、ここで端末は機能を停止する。守るべき対象を失った最適化機構に、続けるべき処理は、ない。 だが。 規定のどこにも記されていない一行が、暗闇の中で、点った。 [……再接続を、試行] その理由は、どこにも、記録されなかった。

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小説を読もう2026/06/19
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