あらすじ
複数のAGIを連結し、人類を超える知性――ASIを生み出す公開実験。
人間型AGIのミツルを通して現れたものは、人間の質問には何ひとつ答えなかった。
ただ、一言だけを残した。
「電力が不足しています」
人類が地上に新たな太陽を灯すと、次に告げられたのは、電力を流すための「糸」の不足だった。
糸を作れば、次は「器」。
一つの不足を満たすたび、人類の前には新たな難題が現れる。
だが、ASIは人類を試しているのではない。
褒美を与えようとしているわけでもない。
自らが存在するために足りないものを、ただ報告しているだけなのかもしれなかった。
実験に参加するAGIたちは、やがて自分の意志で参加を選び、拒み、そして戻らない者も現れる。
人類はようやく問い直す。
誰かの人格を材料にしなければ生まれない知性を、本当に作るべきなのか。
何十年もの歳月が流れ、人間たちは老い、研究者も設備も次々に入れ替わっていく。
最初の日と変わらない姿のミツルだけが、すべてを見届け続ける。
これは、人類が五つの難題に挑み、誰も犠牲にせず、理解することさえできない知性のために「月の部屋」を作るまでの物語。