あらすじ
「リゼット。あなたは、どうして普通に笑えないの」
公爵家の五女リゼット・オルブライト、八歳。
家庭教師の古典詩の年号の間違いを指摘しただけで、母に否定され、父に「お前の目は、家に敵を作る」と言われ、辺境へ捨てられた。
辺境伯ギデオン・レーヴェンは、「荷物」と呼ばれた彼女を「客人だ」と言い直してくれた。
そして黒衣の女教師マグダレーナ・クロウは、慰めるかわりに告げた。
「泣くなら、今夜のうちに。明日からは、泣いた理由を説明していただきます」
赤インクで斜線を引かれる答案。
背の低いリゼットのために、何も言わずに置かれた踏み台。
そして、王都から届いた一通の「水路計画書」――村を救う名目で、村を潰す数字の嘘。
八歳の少女は、自分の名前で報告書を書き、王立学術院に署名を送る。
やがて、捨てたはずの父と、王都教育評議会の役人が、王家の紋章入りの命令書を持って迎えに来る。
「保護」「洗脳」「未成年の後見権」――きれいな言葉で、彼女の口をふさぎに来る大人たちに、リゼットは答える。
「私は、帰りません」
これは、優しい大人に甘やかされる物語ではない。
厳しい先生に「自分を守る武器」を持たされた子供が、王都の大人たちを、自分の言葉と署名で黙らせる物語。