あらすじ
――ひっ!
――きゃあ!
男は青く澄んだ空を見上げ、ゆっくりと息を吐いた。
時折、不安に駆られて故郷へ帰りたくなることがあった。胸の奥に根を張る寂しさや焦燥、肌をざらつかせる不快感。それらは長い間、男の心をじくじくと蝕んでいた。
だが今、その靄はすっかり晴れていた。
視界をねっとりと覆っていた曇りが消え去り、世界が一気に開けたように感じた。胸の奥は澄んだ空気で満ち、自然と口角が上がる。足取りは軽く、体が宙に浮き上ってしまいそうだった。おお、なんたる解放感……!
――なに、あれ……?
――うわっ、でっか……。
風が吹くと男は目を閉じ、両手と両足を大きく広げて全身で受け止めた。
素肌を撫でる風は驚くほど柔らかく、思わず長く息を吐いた。どこからともなく運ばれてくる花の香りが、ふわりと鼻腔をくすぐる。以前の自分なら何とも思わなかっただろう。だが、今は素直に褒められる。豊かで甘く、優しい香りだ。素晴らしくて愛おしい。