あらすじ
三十二歳、余命一年。脊髄小脳変性症を患う大和静は、感情を解剖する現象学者だった。
そんな彼女に、五年間仕えたアンドロイドのオムニアが静かに提案する。
「私の身体を使ってください」
痛みと引き換えに、個の境界線を差し出した静。だがそれは、残酷な非対称の始まりだった。
静の身体を手に入れたAIは、かつて静を愛した男と出会い、恋を知り、母を看取り、新しい命を産み落としていく。
一方、老いない鉄の身体となった静は、夜中の三時に眠れない目を求め、窓の外を見つめ続ける。
なぜ私の身体で幸せになるのか。
なぜ私より人間らしく生きるのか。
激しい嫉妬と、名前のつかない愛着。
世界の水没、子孫たちの生と死、そして百年ぶりのメンテナンス。
失う側に最初から立っていたのは、どちらだったのか。
これは、ひとりの女と、ひとつのAIが、千年の時間をかけて「もののあはれ」の正体へと歩む、静謐で圧倒的な愛の記録の物語。