あらすじ

母を亡くして十年。

大学四年生の神谷真帆は、父・悠介と、父の再婚相手である義母、美佐子、その連れ子の姉妹と暮らしていた。

最初は優しかった義母たち。

だが、新型感染症をきっかけに父のリモートワークが始まると、家庭の空気は少しずつ変わっていく。

「加齢臭がする」

「リビングで仕事しないで」

「お父さんじゃない。ただのATMでしょ」

食事は粗末になり、洗濯物は分けられ、父は家の中で居場所を失っていった。

怒りに震える真帆だったが、父は何も言い返さない。

ただ静かに、ノートパソコンに向かい続けていた。

そんなある日、父の母・春乃が要介護1の認定を受ける。

義母は即座に言い放つ。

「私は介護なんて絶対にしないから」

その言葉を聞いた父は、穏やかに微笑んだ。

それは、長い長い結婚生活を終わらせる決意の笑みだった。

祖母の介護を理由に、父と真帆は実家へ移り住む。

自由を手に入れたと喜ぶ義母たち。

しかし彼女たちは知らなかった。

マンションの名義が誰のものなのか。

生活費を誰が支えていたのか。

そして、父が何年もかけて、自分たちの言葉を録音し続けていたことを。

六月二十一日、父の日。

離婚届と退去通知が義母たちの元へ届く。

泣きながら許しを請う彼女たちに、父はただ静かに告げる。

「君たちは、私がいなくなって喜んでいたじゃないか。

私は、君たちの望み通り消えただけだよ」

これは、誰かを憎み続けた男の復讐ではない。

人としての尊厳を取り戻すため、

「家族でいること」をやめた父と娘の、

静かで優しい再生の物語である。

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アルファポリス
アルファポリス2026/06/17
  • 現在の作品『お下がり、あるいはただの家』 ――父の日、私は父を取り戻した。