あらすじ
兄の婚約披露宴で、未来の義姉になるはずの女が、私に向かって言った。
「佐伯先生って、病院の外で“夜のお仕事”もされているんでしょう?」
その瞬間、会場中の親戚たちの目つきが変わった。母は顔を真っ青にし、継父は黙り込んだ。兄だけが、彼女の肩を抱いたまま笑っていた。私はシャンパンのグラスを置き、彼女の首に巻かれたスカーフを見て、静かに尋ねた。
「白鳥さん。今日のホテル、空調がずいぶん効いていますよね。それでもまだ寒いんですか?」
彼女の顔がこわばった。私はさらに、彼女のバッグの中に見えていた白い薬瓶へ視線を移した。
「それから、さっきあなたはそれをビタミン剤だと言いましたね」
「必要なら私が確認しましょうか。その“ビタミン剤”が、本当にサプリなのか。それとも抗レトロウイルス薬なのか」
宴会場は、一瞬で静まり返った。聞こえるのは、司会者のマイクに走る微かなノイズだけだった。彼女が悲鳴を上げて私に向かってきた時、私はすでに東都医科大学病院感染症内科の当直電話へつないでいた。
「佐伯澪です」
「現場で、重大な感染症リスクを故意に隠し、健康診断書を偽造し、親密な接触関係にある相手を高リスク曝露状態に置いている可能性があります」
「場所は、港区虎ノ門、青山クラウンホテル。婚約披露宴会場です」
「院内の緊急連絡ルートを起動し、保健所へ相談してください」