あらすじ
五十歳の春、小山雄一郎は辞令一枚で、二十八年間積み上げてきたもの、すべてを置いてきた。子会社への出向。それは、静かな戦力外通告だった。
新しい職場で彼が持ち込んだのは、長年の経験と、磨き上げた「フォーマット」だった。しかしそれは、誰にも届かなかった。日報は出てこない。提案書は空気に消える。部下たちは黙ったまま、壁の向こうに立っている。
やり方が間違っているのか。それとも、自分という人間が、もう古いのか。
荷物を降ろしたとき、初めて景色が見えた——。
経験を重ねるほど、人はなぜ動けなくなるのか。「知っている」ということが、いつの間にか「見えない」ことになっていないか。この物語は、そんな問いを、静かに、しかし確かに、あなたの胸に置いていく。