あらすじ
なぜ、人間の性(エロス)だけが、終わりなき「煩悩」と化してしまったのだろうか。生殖という目的だけを見れば、他の動物のように発情期が過ぎれば関心を失えばいいはずだ。しかし、サピエンスだけが文明の檻に入ってもなお、寝室の暗闇で激しい情動に身を焦がし続けている。
本『エロス起源論』シリーズが突きつける最大のコンセプトは、私たちが官能の極致において味わう「実存の震え」はすべて、数万年前の荒野で先祖たちが生き延びるために駆動させていた、脳の原始回路の木霊(こだま)であるという冷徹な真実だ。
私は官能小説を書いている。長年言葉を用いて粘膜の熱や肌触りを紡いできた。本稿では、ユヴァル・ノア・ハラリの歴史論、ジョルジュ・バタイユの侵犯の美学、そして中沢新一氏の対称性の思考を重ね合わせ、立ち上がったサピエンスが直面した「垂直の崇高さ」と「水平の残虐」の相克を解き明かしていく。
遺伝子に刻まれたエロスの初源へと降りていく、妖艶なる思考実験の幕を、今ここで開けよう。