あらすじ

室内に響くのは、金属の先端が上質な羊皮紙を削る、規則正しくも冷徹な摩擦音だけだった。 万年筆の先から染み出す漆黒のインクは、アシュクロフト公爵領の次期関税率を淀みなく、寸分の狂いもなく書き換えていく。 窓外に広がるのは、うっすらと夕闇の紫に包まれ始めた帝都の壮麗な街並み。ガラス越しに差し込む斜光が、私の机の上に置かれたクリスタル調度品に当たり、鋭い光の破片を床に散らしていた。 私の呼吸は一定だった。心臓の鼓動もまた、静かな湖面のように微塵の揺らぎもない。この指先に流れる魔力の奔流が、体内で深く、静かに脈打っているのを感じるだけだ。 アシュクロフト公爵家の家督を継ぐ者として、私は生まれてから一度たりとも、感情という無駄な波風に身を委ねたことはない。すべての事象は、私の盤上において処理されるべき記号に過ぎなかった。 対面に立つ男から漂う、鼻を突くほどの濃厚な薔薇の香水。それが、この洗練された執務室の空気を不快に濁らせていた……

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小説を読もう2026/06/17
  • 現在の作品私が不要と捨てた元婚約者が身の程を知らずに「ざまぁ」を企てているようですが?