あらすじ
「女子枠は藤代な。男子、誰かやるやつはいないか」
高校最後の春。三年間クラス替えのない、硬直した教室。
本と図書室の静寂を愛する藤代詩乃は、高三になっても進んで図書委員を引き受けた。
一方、男子のくじ引きで最悪の「ハズレ(アタリ)」を引いてしまった、冴木郁斗。
「男女一人ずつ」という決まりごとが、同じクラスでありながら交わるはずのなかった二人の世界を、放課後のカウンターで強制的に結びつける。
嫌々付き合わされている彼に、重いなんて思われたくない。
嫌がっている彼に、引かれたくない、嫌われたくない。
傷つくことを何より恐れた詩乃は、おちゃらけたピエロの仮面を被り、冗談という名の「保険」を何重にも張り巡らせてしまう。
「私に惚れちゃった? ……なんてね!」
デジタルスキャナーが響かせる、素っ気ない『ピッ』という電子音。
本を通じて、かすかに触れ合う二人の孤独。
だんだんと、確かに恋が勝っていくのに、詩乃の「予防線」は、郁斗との未来を少しずつ、致命的に狂わせていく。
これは、傷つかないための嘘を重ねすぎた少女と、その言葉を信じ切った少年の、夕暮れに溶けて消えていった「名もなき恋」の記録。