あらすじ
⓵あらすじ
海沿いの町・乾浦町に残る古い乾ドックは、取り壊されて倉庫用地になる寸前だった。
都会で働けなくなり実家へ戻った槙悟は、町では「何もしていない男」と見られている。そこへ、再生請負人として泰人が帰ってくる。二人は幼なじみで、十年前に星願い夜市を失敗させて以来、顔を合わせれば刺々しい言葉ばかり交わしてきた。
そんな二人が月見神社の石碑に触れた夜、月光に照らされた古い文字が浮かび、平安時代の稲浦郷を映す箱庭へ引き込まれる。そこでは塩害による「灰色の終焉」が迫り、都から来た勅使が禁忌の魔法で村の時を止めようとしていた。
現代では乾ドック売却、過去では水路の危機。
槙悟の観察眼と、泰人の策が重なった時、嫌い合う二人は町と稲浦郷をつなぐ唯一の相棒になる。
失敗した夜市をもう一度灯すため、乾浦町の人々は「乾ドック雑魚連合」を名乗り、笑われた言葉を旗印に変えていく。
これは、仲良しではない男たちが、誰よりも互いを信用して町の明日を取り戻す物語。
②登場人物の紹介
槙悟
二十九歳。都会の流行調査会社を辞め、乾浦町に戻った男。人の声色、客の足取り、空気の重さから、人が何を求めているかを感じ取る。町では無職扱いされているが、平安時代の稲浦郷ではその観察眼が村を救う力になる。泰人とは口を開けば喧嘩になるが、彼の逃げ道の作り方だけは誰よりも知っている。
泰人
三十一歳。乾浦町に戻ってきた再生請負人。冷静に状況を組み替え、勝ち筋を作るのが得意。損得で動くように見えるが、自分が憎まれれば済む場面では迷わず前に出る。槙悟を「一番厄介で、一番使える男」と見ている。
統貴
乾浦高校の生徒会長。嘘がつけず、会議でも本音をそのまま言って大人たちを凍らせる。星願い夜市復活の高校生側代表として、槙悟と泰人の喧嘩まで真面目に記録しようとする。
萌々恵
月見神社の家に生まれた女性。石碑の異変を最初に察する。伝統をただ守るだけでなく、今の町に必要な形で生かそうとしている。
千賀子
食堂を営む女性。誰かと比べず、目の前で空腹になっている人へ自然に飯を出す。槙悟が弱った夜にも、理由を聞かずに受け止める。
七泉
乾浦町を取材に来た地域誌の記者。最初は槙悟を「働かない町の厄介者」と見てしまうが、町を歩くうちに、彼が人の動きを丁寧に見ていることに気づいていく。