あらすじ
「帰る」
前世の俺は、その二文字を送れないまま死んだ。
親との約束も、やりたかったことも、全部先延ばしにしたまま終わった俺は、異世界の農村にアルト・レイマーとして転生する。
転生先は、貴族でも勇者の家でもない。
畑を耕し、羊を飼い、麦粥を食べて暮らす貧しい村の家だった。
だけどそこには、無口で不器用な父がいた。
薬草に詳しく、優しくも厳しい母がいた。
泣き声で家を支配する妹がいた。
そして、いつも俺より速く走る幼なじみのエマがいた。
世界を見たい。
冒険者になりたい。
王都も海も、竜の骨も見てみたい。
そう思う一方で、アルトは少しずつ知っていく。
遠くへ行くには、まず飯がいる。
家族を守るには、力だけでなく知識と信用がいる。
そして旅に出るなら、帰る場所を忘れてはいけない。
不作続きの村、減っていく蓄え、領主からの通達。
憧れていた外の世界は、ある日突然、仕事と命令の顔をしてやってくる。
これは、逃げ続けた前世を持つ少年が、麦畑の村で家族と生き、幼なじみと約束し、いつか世界の果てを目指す物語。