あらすじ

三年かけた麦畑が、愛人の薔薇園に変わった。 リーネは伯爵家の婚約者。 毎朝、泥にまみれて種の改良研究を続けていた。 領地の三割の税収を支える、見えない仕事だった。 婚約者はその手を恥だと笑う。 愛人が望んだ薔薇を植えるため、研究農地が潰された。 三年分の畑が、一日で消えた。 持ち出したのは、泥のノートと一握りの種だけ。 宝石も衣装も、すべて置いていった。 その一握りが何を意味するか、婚約者は知らない。 改良種を育てる方法は、あの記録にしかない。 原種は、あの小さな麻袋にしかない。 王宮への報告義務を、彼は聞き流していた。 北の痩せた土地に、リーネの論文を読んだ男がいる。 泥にまみれる手を、恥ではなく尊いと呼ぶ人がいる。 薔薇は美しい。 けれど、薔薇だけで冬は越せない。 あの種の重さを、笑った人はまだ知らない。

連載情報

ウェブ小説

配信言語
小説を読もう
小説を読もう2026/06/16
  • 現在の作品泥まみれの妻が恥でしたら、どうぞ薔薇だけで冬をお越しください