あらすじ
色を失った葉が枝を離れ、乾いた音を立てて地に伏す。空は薄墨を流したように鈍く濁り、吹き抜ける風はどこか湿り気を帯びていた――。
とある地方に構える大屋敷、阿部本家。
そこの長老たる偉大な男、阿部本宗理がこの秋息を引き取った。享年九十五歳。屋敷の寝室にて迎えた大往生である。
宗理氏はその卓越した手腕で数多の人間を取り込み、政財界をはじめ各界隈に絶大な影響力を及ぼしながら、長きにわたり権力を保持してきた。三人の息子をもうけ、莫大な財産を築き上げただけでなく、一家の精神的支柱として君臨してきた。まさに阿部本家という王国の象徴であった。
晩年になってなお頭ははっきりしていただけに、その死は多くの者に惜しまれた。
盛大に執り行われた葬儀では、黒服の列が門を越えて道路にまで伸びた。坊主が読経を終えても、焼香台の前には人の姿が絶えず、火葬場の煙突から立ち上る白煙を見送る間もすすり泣く声は途切れることがなかった。たとえ燃やそうが細断しようが、黒く塗り潰そうが人々の心からは抹消しきれない。宗理氏の人生がどれほど大きかったかを物語る別れであった。
だが――それから三日後のことである。
「えっ……」