あらすじ
男は六十三歳になった今も、ある根源的な問いを鞄の底に忍ばせるようにして持ち歩いていた。
「人はなぜ、生まれ、そして死ぬのか」。
中学二年生の秋に祖父の死を目の当たりにして以来、ずっと胸を焦がしてきた謎だ。
定期検診のために訪れた病院の待合室。消毒液のにおいが漂う静寂の中で、男は九十歳を超える老婆と出会う。若い頃は早く答えが欲しかったと語る老婆は、いまは答えよりも世界を見ていたいのだと静かに微笑んだ。
宮沢賢治、種田山頭火、尾崎放哉、そして数学者の岡潔。かつて問いに挑み続けた先人たちの生き様を振り返りながら、男は生物学的な死のメカニズムや老年的超越という概念に思考を巡らせる。
これは、答えを収集することをやめ、世界の輪郭をはっきりと見るために窓を増やし続けようとする、一人の男の内省と救済の物語。