あらすじ
千年に及ぶ誤解と業に縛られた、二人の人ならざる者がいる。
甘味処「花月堂」の店主・神楽木花月と、ショットバー「Abyss」のマスター・篁壮一郎。
深い悲しみを抱えた者は花月堂へ辿り着き、花月は甘味と対話を通して、苦しくとも前へ進むための道を示す。
一方、怨みや憎しみに囚われた者はAbyssへ引き寄せられ、壮一郎は復讐を望む者に呪いの盃を差し出す。
光と闇、救済と呪い――表裏一体の役割を担う二つの店は、同じ街に静かに在り続けている。だが、その均衡を支える二人自身もまた、千年前から解けない傷を抱えていた。
第一章では、悪夢に苦しむ会社員・茉莉枝が、幼い頃に大切にしていた人形にまつわる悪夢の真相を追い、母から受けた虐待の記憶と向き合う。
第二章では、愛猫を惨たらしく殺された青年・直哉がAbyssに導かれ、連続動物虐待犯への復讐を果たす。ここで花月堂の「救済」とAbyssの「呪い」が表裏一体であることが明らかになる。
第三章では、亡き祖母への後悔を抱えた介護職員・弓美が花月堂を訪れ、戦時中に恋人と生き別れた入居者・菊緒の人生を追体験する。弓美は亡き祖母と和解し、自らの生き方を見つめ直す。
そして第四章、初めて花月が自分のための菓子を食べ、過去に戻り、二人の因縁の真相が明かされる。
他者の傷と向き合い続けた花月は、最も深く目を逸らしてきたものを見ることになる。
完全に過去を清算できるわけではない。
誤解はなお解けない。
それでも花月と壮一郎は、互いの痛みを抱えたまま、同じ夜を生き続ける。
甘味で人を救う男と、呪いで人の怨みを晴らす男。
幽玄な二つの店を舞台に、二人の千年越しの誤解と、そこへ招かれる人々の人生が交差する、和風ゴシック幻想譚。