あらすじ

妹の身代わりに、わたしは死んだ。何度でも。覚えているのは、わたしだけ。


「お姉さま。どうか、安らかに」

処刑台の一番前で、妹のクラリスが祈りの形に手を組み、微笑んだ。

家に「居ないもの」として育てられたわたしには、戸籍がない。食卓に椅子もない。飼い犬は「あの子」と呼ばれ、わたしは「あれ」と呼ばれた。それでも妹だけは、たった一人の味方だと信じていた。

侯爵家との縁談にひそむ罪を、犯してもいないわたしがかぶる。妹を守れるなら、それでよかった。家族に必要とされたのは、生まれて初めてだったから。

刃が落ちる直前、その笑みの意味を、ようやく正しく読む。
感謝では、なかった。

目を覚ますと、世界は妹の縁談が決まった、あの朝に戻っていた。
何度死んでも、戻るのは同じ朝。みんな忘れて、覚えているのは、わたしだけ。

けれど、ひとつだけ変えられる。
死ぬ前にこの手でひとり仕留めれば、そのひとりは次の世界から消える。

人として数えられなかったわたしを、誰も疑わない。
まさか、自分を滅ぼすのが、あの娘だとは。

なぜ、わたしは「影の子」に選ばれたのか。
その答えにたどり着くころ、わたしはもう、自分が誰だったかも——

ひとりずつ、静かに。
覚えているのは、わたしだけ。

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アルファポリス
アルファポリス2026/06/15
  • 現在の作品【完結】覚えているのは、私だけ