あらすじ
「大丈夫ですよ」
聖女様は、いつもそう言った。
卒業パーティを前に、王太子たちは一人の少女マリアのため、本物の聖女を断罪しようとしていた。 大神官の息子である私は、その輪の中にいながらも、どこか不穏なものを感じていた。
そんな時、神殿の古書庫で一冊の手記を見つける。 そこに記されていたのは、かつて聖女を粛清した国の末路だった。
正義の名のもとに貴族を裁き、神殿を暴き、国を変えた。 けれど流通は止まり、民は飢え、隣国は救いではなく占領者として現れた。
苦しむ民に、死にゆく子どもに、未来を失った妊婦に。 聖女様は、ただ穏やかに言い続ける。
「大丈夫。神はすべてを受け入れてくれています」
私は本を閉じた。 そして現在の聖女と目が合う。
「大丈夫ですよ」
その言葉を聞いた時、私は初めて思った。
――本当に、大丈夫なのだろうか。