あらすじ
◆あらすじ
「息子が、別の子になった」——そう訴える母親は、夫にも医者にも気のせいだと言われた。
民俗学者の辻村鈴音は、地域文化研究家・田所めぐみの依頼で調査に乗り出す。現地で引き合わされたのは、フリーのオカルトライター・奥山朔。聞き込みを進めると、同じ住宅地で過去三年間に五件、同じ症状の報告があり、全員が同じ公園の砂場で遊んでいたことが判明する。
公園の隅に残る石碑。戦後に建てられた精神科病院の跡地。民俗学者が病院を建てた、という記録。子供たちが口を揃えて語る「ずっとそこにいる人たち」。そして、この土地に古くから伝わる「ネノカタさん」と呼ばれる何かの存在。
調査者を門前払いにした老女が、一本の電話をかけてきたとき——バラバラな手がかりが一本の線でつながる。
——子供たちは、本当に何かに「代わった」のか。
◆登場人物
辻村 鈴音(つじむら すずね)26歳
民俗学者・大学院研究員。全国各地の民間信仰・怪異伝承をフィールドワークで調査している。学術的なアプローチで物事を分析するため、超常現象には懐疑的。しかし現場に出ると誰よりも深く事件に入り込んでしまう巻き込まれ体質。証拠と論理で動くと自認しているが、「勘」を使う場面もある。関西出身のため、感情が高ぶると関西弁が出る。
奥山 朔(おくやま さく)43歳
フリーライター・オカルト専門。週刊誌やムー系雑誌に記事を書く中年男。一見「怪しいおじさん」だが、二十年以上の取材経験から培われた人脈と嗅覚は本物。愛用のフィルムカメラを常に持ち歩き、「デジタルには映らないものがある」が口癖。信じやすいように見えて、実は本物と偽物を見極める目を持っている。
田所 めぐみ(たどころ めぐみ)52歳
地域文化研究家・フリーランス。鈴音と朔それぞれの知人で、今回二人を引き合わせた人物。全国の怪異・民俗案件を独自にデータベース化しており、業界では「困ったらめぐみさんに聞け」と言われる存在。今回の依頼者・陽菜とは、地域コミュニティ活動を通じて知り合った。
西村 陽菜(にしむら はるな)34歳
会社員・母親。五歳の息子・蓮が三ヶ月前から「別の子になった」と感じ、めぐみに相談したことで調査が始まる。夫にも医者にも「気のせい」と言われ続けたが、母親としての確信だけが揺らがない。自分の感覚を信じていいのかどうか、それ自体に揺れている。
西村 蓮(にしむら れん)5歳
陽菜の息子。外見も声も記憶も変わっていない。ただ、好きなものが変わった。怖がっていたものを怖がらなくなった。ふとした瞬間に、五歳児とは思えない目をする。自分が「変わった」という自覚はなく、ただ「聞こえるから聞いている」だけだと言う。
橘 志保(たちばな しほ)68歳
戦後に精神科病院を建てた民俗学者・橘誠一郎の孫。調査者が訪ねてきても追い返し、何も語ろうとしない。しかし鈴音が祖父の残した寄稿文の核心に辿り着いたとき、自ら電話をかけてくる。三年間、誰にも信じてもらえないまま、この土地と向き合い続けてきた人間の目をしている。
橘 誠一郎(たちばな せいいちろう)※故人
志保の祖父。昭和三十二年没、享年五十歳。戦前の帝国大学で民俗学を研究し、「土地霊の封印」を主題とした論文を発表。戦後、精神科病院「橘記念病院」を建設した。医師ではなく民俗学者がなぜ病院を建てたのか——