あらすじ
死体や壊れたものしか鑑定できない青年レインは、勇者パーティーで「不吉な役立たず」と蔑まれていた。魔王討伐を終えた直後、勇者カイゼルはレインを不要と判断し、報酬も与えずに追放する。
ひとり魔王城に残されたレインは、倒された魔王ゼルグレイスの遺体を鑑定する。すると、表示されたのはあり得ない結果だった。
【遺体価値:世界再生素材SSS】
【正しい処置:埋葬】
魔王は世界を滅ぼす存在ではなく、暴走する魔力を一身に受け止め、世界を守っていた“楔”だったのだ。
魔王の遺体を兵器素材として利用しようとする王国軍から逃れるため、レインは魔王の娘リュシアとともに遺体を棺に納め、辺境の廃村へ向かう。そこでレインは、魔王の遺体を畑に埋葬する。
すると、枯れ果てた大地に黒い花が咲いた。
干上がった井戸に水が戻り、病に倒れていた村人たちが回復し、死んだはずの土地が息を吹き返していく。
レインの力は、死者を素材として利用する力ではなかった。
死者が残した価値を、生きている者へつなぐ力だった。
やがて廃村には、戦争で居場所を失った者、魔族の孤児、勇者に見捨てられた兵士たちが集まり、「黒花の村」と呼ばれるようになる。
一方、王都では魔力循環が乱れ、畑が枯れ、病が広がり始めていた。魔王の遺体を失った王国は、真実を隠すため、レインを「魔王復活を企む反逆者」として指名手配する。
さらに、レインを追放した勇者カイゼルは、魔王の心臓を奪い、不死兵団を作ろうと黒花の村へ進軍する。
レインは剣も魔法も得意ではない。
だが、彼には死者の声を読み取る鑑定がある。
村人たちの想いがある。
そして、魔王が命を懸けて守った世界の真実がある。
最後の戦いで、レインは勇者の聖剣を鑑定し、その剣が魔王の犠牲によって浄化されていたことを暴く。聖剣は勇者カイゼルを拒み、偽りの英雄は失墜する。
レインは魔王を蘇らせるのではなく、完全に弔うことを選ぶ。
魔王の遺体は黒い花となって大地に還り、世界中の魔力循環は安定する。
魔王の娘リュシアは父の死を受け入れ、レインとともに黒花の村で生きていくことを選ぶ。
これは、死体しか鑑定できなかった青年が、死者の価値を生者へつなぎ、誰にも弔われなかった魔王を救う物語。
そして、捨てられた者たちが、もう誰も捨てられない村を作る物語である。