あらすじ
「君の代わりはいくらでもいるんだよ、リリア」
王宮文書局で働くリリアは、婚約者であり上司でもあるアルフォンスにそう言われた。
彼は知らない。
リリアが確認した書類ひとつで、北方砦の兵士たちに毛布が届いたことを。
彼女が通した申請ひとつで、孤児院の子どもたちが冬を越せたことを。
王宮の仕事が滞らないよう、誰にも見えない場所で支えていたのがリリアだったことを。
けれど、彼が言うのなら仕方ない。
代わりはいくらでもいるらしい。
ならば本当に、代わりを用意してから辞めよう。
リリアは半年かけて、新人文官、写本係、倉庫係、侍女、警備兵、使い走りの少年にまで仕事を教えた。
書類の読み方を。
数字の嘘を。
仕事の向こうに、人の暮らしがあることを。
そして百人を超える人材を育て上げた日、リリアは辞表と婚約解消の申立書を提出する。
「わたくしの代わりは用意いたしました。ですので、わたくしは辞めます」
これは、自分を軽んじた婚約者に何も期待しなくなった有能文官が、静かに職場を去り、残された者たちが彼女の価値を思い知る話。