あらすじ
※tales、Nolaから転載。
日本の行方不明者は年間約八万人、世界では約三九万人。 数は右肩上がりだ。その中で、理由もなく煙のように消えた連中は"特定行方不明者"と呼ばれていた。 二〇二八年。
潮目が変わった。
消えたはずの連中が無作為に、そして唐突に帰還し始めたのだ。帰還者たちは一様に、血の匂いのする特殊な能力を宿していた。口を揃えて抜かすには、〈神〉だか〈女神〉だかと称する存在から力を授かったのだという。 当初、世界はこの奇跡を歓迎し、涙の再会や社会復帰を支援した。 だが、力は人を狂わせる。強大な力を得た帰還者の一部は、傲慢な魔王か、あるいは薄汚い賊へと成り下がった。人間の欲望に底はない。己の力を誇示し、私欲を満たすために"奇跡"を乱用する。世界の秩序は、砂の城のように崩壊の危機に瀕した。腐敗と憎悪がヘドロのように蔓延し、世界は悪夢に飲み込まれようとしていた。 その時、長年にわたり世界の裏側で糸を引いてきた〈上位種族〉たちが動き出す。奴らは帰還者の問題を利用し、世界の社会機能を完全支配下に置こうと画策した。考案されたのは、反吐が出るような〈広告ヒーロー化〉だ。自らの意志で国際連合および上位種族の軍門に降ったグループは〈公的英雄〉と称され、富と社会的地位を餌に飼い慣らされた。ただし、首輪の鎖を外すことは許されない。規則に背けば、超人や改造人間で構成された半ば民間ボランティアの殺し屋集団〈特別機動保護司〉によって、音もなく処理される。 異世界から流れ着いた亜人や力を捨てて平穏を望む臆病者は〈特異市民〉として管理された。
対して管理を拒み、自由を求めて犯罪に手を染めた者は〈異能犯罪者〉のレッテルを貼られ、徹底的に弾圧されていく。
こうして人智を超えた化け物どもに市民権が与えられ、歪な秩序とともに上位種族の支配は盤石なものとなった。
ブーツの足音が乱れ、混沌が日常に溶け込んだ――二〇三五年。