あらすじ
【械生物】
明治の終わり、1900年代初頭に遡る。日本が極北の未開地を求めた時代、探検隊がこの群島を発見した。リアス式海岸が織りなす複雑な地形、氷に閉ざされたフィヨルド。漁業と鉱業の拠点として、日本人移民が根を下ろした。町は生まれ、鉄道が敷かれ、文明が花開いた。だが、島はどの国にも属さず、無主地として忘れ去られた。
1940年代、終戦後の混乱期、鍵島で「大災難」が起きた。原因は今も謎だ。ある者は、北極の磁場が未知のエネルギーを引き起こしたと囁く。結果は明白だった。家具、車、電気、空気――あらゆる物質が、突如として意識を宿した。人の姿に変わり、言葉を話し、感情を抱いた。彼らは「械生物」、通称「カラクリ」または「異形」と呼ばれた。そして、彼らはそれぞれ固有魔法を持つのだ。
最初の異形は、人間を模倣した。だが、すぐにその本性が現れた。人間に乱暴に扱われ、壊され、捨てられた物々の怨念が、異形たちに殺意を植え付けた。鍵島の人間は次々と惨殺された。家屋は自ら立ち上がり、電線は蛇のようにうねり、水は溺れる手となって襲いかかった。生き残った者たちは島を脱出し、二度と戻らなかった。
異形の誕生は、島に留まらなかった。世界中で、物質が突然「バイオ因子」に侵され、異形へと変貌した。街角の椅子が、夜道の街灯が、スマートフォンが――いつ何が人外になるか、誰も予測できない。バイオ因子は、物質に宿る呪い。宇宙の彼方から飛来したとも言われるが、真実は闇の中だ。
人間社会は、異形を恐れ、鍵島群島を隔離場とした。人工カラクリ――人間がセントラルフィード303という物質で加工した、感情を持たぬ機械の兵士―H.Air―が島を管理する。彼らは一般的に看守と呼ばれている。島からの脱出は不可能。島外で新たに生まれた異形は、即座に見つかり、鍵島へと送られる。
鍵島は、ただの監獄ではない。異形たちは独自の文明を築いた。錆びた鉄道が島を繋ぎ、市場では家具の異形が交易し、電灯の異形が夜を照らす。彼らは服をまとい、言葉を交わし、喜びや怒りを抱く。共通するのは「壊れる」運命だ。鉄は錆び、木は腐り、