あらすじ
「君はただ黙って、誰かの言葉を書き写しているだけの女だ」
王宮文書課の事務官であり、王太子妃候補でもあったエリシアは、多くの貴族が集まる舞踏会で婚約破棄を言い渡された。
王太子の執務机を崩壊させないためだけに宛がわれていた彼女は、自らの実務能力を「ただの書類整理」と嘲笑する殿下に静かに一礼する。
「婚約破棄、承りました。では、本日付で退職いたします」
あっさりと未練なく王宮を去ったエリシア。
しかし、残された王太子は理解していなかった。
誰が何を約束し、どの案件がどこで止まっているのか。
国を動かす「記憶」のすべてを管理していた彼女が消えたことで、王太子の執務室は翌朝から大パニックに陥ってしまう。
一方、退職して自由になったエリシアのもとに、隣国の若き宰相補佐・「氷の公爵」が直々にやってくる。
彼女の残した完璧な会議記録を見た彼は、エリシアの真の価値を誰よりも正確に理解していた。
「あの水準の記録を作れる者を、ただの整理係とは呼ばない」
破格の好待遇でスカウトされたエリシアは、自分を正当に評価してくれる隣国で新たな一歩を踏み出す。
今更になって「君が必要だ!」と追いすがってくる元婚約者に、彼女は一枚の見積書を突きつけて冷たく言い放つ。
「私はもう、無料で誰かの人生を整えたりしません」
――これは、都合の良い裏方として消費されていた有能な事務官令嬢が、自分の仕事と人生を取り戻し、新たな場所で鮮やかに輝き始めるまでの物語。