あらすじ
三月の末日に、田中義男(45歳)は会社をクビになった。
二十年が、紙袋ひとつだった。
帰り道、足が意図せず路地裏に向かった。
怪しい露天商・玄道が言う。
「猫の皮だ。被れば猫になれる。
お代は、一度だけ本音を言うこと」
「……本当は。全然、しょうがなくない」
その一言で、義男は黒い全身タイツを受け取った。
猫になった義男は、日向で寝て、魚をもらって、
路地裏の仲間たちと夜を越えた。
感情を押し込めた四十五年分が、
にゃ、みゃ、ふごっ、
という声で少しずつ外に出ていった。
「猫を被る(本音を隠す)」男が
猫になることで、初めて本音を曝け出す。
大人の哀愁と、猫の無邪気さが交差する、
ちょっとおかしくて、少しだけ泣ける物語。