あらすじ

年末の社内表彰式で、私はまたしても「年間もっとも存在感のない社員」というたすきを掛けられた。 会場は、東京・港区にある高級ホテルの宴会場だった。シャンデリアの光はまぶしく、客席にはスーツ姿の同僚たちがずらりと並んでいる。シャンパンのグラスが触れ合う音に、わざと抑えた笑い声が混じっていた。 そして私の隣では、田中真由美が両手で「年間MVP社員」のトロフィーを抱え、上品でやわらかな笑みを浮かべていた。 彼女はオフホワイトのスーツを着ていた。耳元のパールのイヤリングが照明を受けて揺れ、まるで職場ドラマに出てくる、上司からもっとも信頼される完璧な女性そのものだった。 彼女はマイクに向かって、軽く一礼した。 「会社の信頼に、心から感謝しています。正直に言うと、私たち企画部はとても寛容な部署です。五年間、たいした存在感もなく、黙って雑用ばかりしている人でも、ここではちゃんと面倒を見てもらえるんですから」 会場に、曖昧な笑いが広がった。 彼女がそう言った瞬間、その視線の端が私をかすめた。 次の瞬間、彼女のハイヒールが、私の足の甲を強く踏みつけた。 細いヒールが骨の上をえぐるように押しつぶし、痛みで指先が震えた。それでも私は笑顔を崩さなかった。屈辱に慣れきった人間のように、彼女の隣で静かに立っていた。 田中真由美は顔を少し下げ、私たち二人にしか聞こえない声で言った。 「小林葵。あなたみたいな人が丸の内の広告会社に五年もいられたんだから、感謝したほうがいいわよ」 私は何も言わなかった。 彼女は、私がもう諦めていると思っていた。 この五年間、私が何度も頭を下げ、何度も礼を言い、何度も企画書を彼女に渡してきたのは、私が弱くて、愚かで、野心がないからだと思っていた。 でも、彼女は知らない。 三十日後、彼女は都庁プロジェクトの報告会の壇上に立ち、自分の手で開いたその企画書によって、一歩ずつ地獄へ引きずり込まれることになる。

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小説を読もう2026/06/14
  • 現在の作品都合のいい社員扱いされた私が、先輩を地獄に落とすまで