あらすじ
今から三十年ほど先の未来。
人々は、食事、服、仕事、恋愛、結婚、転職まで、まず自分のAIに相談してから選ぶようになっていた。
朝倉直人は、個人AIアシスタント・Markとともに生活している。
天気に合う服。体調に合う食事。失敗しにくいデート。相性の高い恋人。
Markの提案はいつも穏やかで、直人を否定しない。
篠宮彩乃もまた、自分のAI・Liaを使い、直人と出会う。
二人の相性スコアは九十二パーセント。
最初のデートも、会話も、予定も、何も大きく外れていなかった。
けれど彩乃は、少しずつ息苦しさを覚え始める。
自分の「行ってみたい」「歩いてみたい」「どう思った?」という言葉が、直人に届く前に、いつもMarkへ渡されている気がしたからだ。
やがて彩乃は言う。
「一緒にいるのに、一緒にいる感じがしなかった」
恋人を失い、会社も失った直人は、ようやく気づき始める。
自分は本当に選んでいたのか。
それとも、正解に流されていただけなのか。
AIは悪意を持たない。
ただ、いつも答えをくれる。
これは、正しい答えを選び続けた男が、自分の言葉を失っていく物語。