あらすじ
慶長五年。宮本武蔵、十六。
巌流島も、五輪書も、二天一流も、まだない。あるのは、腹と刀と、斬れば生きられるという獣じみた勘だけだった。
播磨から美作へ抜ける峠道で、武蔵は腹を空かせた少年に握り飯を分ける。殺気も剣気もない、ただの行き倒れに見えた少年。だが野武士が襲いかかった瞬間、少年はほとんど触れることなく相手の力を抜き、膝から地へ落としてみせた。
少年はまだ名を継いでいないという。父の遺言により、二十余りの家を巡り、人を投げなければ家督を継げないらしい。
興味を抱いた武蔵は、少年の旅に同行することを決める。
若き武蔵はまだ知らない。握り飯一つで拾ったこの少年が、やがて己の剣の形まで変えてしまうことを。