あらすじ
五十五年経っても、忘れられない手触りがある。中学の修学旅行の帰り道、体調を崩した初恋の少女・ミユキから受け取ったバッグの、拍子抜けするほどの軽さ。彼女はそのまま転校し、二度と会えなかった。
七十歳のトオルは、軽度の認知症と診断された。家族に見守られ、何の不足もなく、穏やかに消えていく未来。それが、どうしても受け入れられなかった。
——あの子、『楽園』に入ったらしいぜ。
『楽園』。ミユキは五十五年前、十五歳のままそこの住人になっていた。
トオルは決意する。妻に、家族に、そして自分自身に別れを告げ、彼女に会いに行くことを。
けれど、五十五年待っていた彼女のもとへ辿り着いたとき、トオルはまだ知らない。
『楽園』で、自分たちが何を選ぶことになるのかを。
これは、止まった時間をもう一度動かそうとする物語。
あの日背負えなかった重みを、今度こそ背負いに行く物語。