あらすじ
父の死をきっかけに故郷へ戻った朝倉樹は、閉店した実家の時計店で、壊れた古い懐中時計を見つける。そこには、十二年前の夏に土砂災害で亡くなった幼なじみ・藤崎澪の名前が刻まれていた。高校時代、樹は澪と将来を誓い合いながらも、進路や家族の問題ですれ違い、災害当夜には彼女からの電話にも出ることができなかった。その後悔を抱え続けてきた彼は、懐中時計が動き出した瞬間、災害前日の2014年8月27日へと時を遡る。
翌日に起こる惨劇を知る樹は、澪と父を救おうと奔走する。しかし、避難を呼びかけても信じてもらえず、行動を変えても結末は少しずつ形を変えるだけで、何度やっても誰かが死ぬ。やがて樹は、自分が救いたいのは澪だけではなく、あの夜に壊れた町全体なのだと気づいていく。一方、澪もまた、繰り返される日々の断片を夢として感じ取り、樹とともに災害の原因を探り始める。
二人がたどり着いたのは、町が危険を事前に知りながら、祭りや経済への影響を恐れて公表を先送りにしていた事実だった。樹の父もまた、その狭間で苦しんでいた一人だった。樹と澪は、父と手を組み、避難経路を調べ、町の人々を動かすための方法を探す。繰り返される失敗の果てに、彼らはただ大切な人を助けるだけでなく、町の嘘と向き合い、未来そのものを選び直そうとする。
止まった時間の中で、何度も後悔と喪失を味わいながら、樹はようやく「過去を完璧にやり直す」ことではなく、「不完全なまま明日を選び直す」ことの意味を知る。これは、救えなかった夏を越え、失ったはずの未来へもう一度手を伸ばす、切なくもあたたかなタイムリープ小説である。