あらすじ
聖水を飲んだ子が、また倒れた。
山裾のミルダ村では、腹痛、吐き気、手足のしびれを訴える村人が相次いでいた。聖女の治癒魔法で目の前の患者を救っても、翌朝には別の家から次の患者が出る。聖水を配っても止まらない異変に、村人たちは不安を募らせ、やがて「聖女でも止められないのか」と責める声まで上がり始めた。
王都中央治療院の記録係リョウコだけは、そこで別の違和感に気づく。
治療で目の前の患者を救うことと、新しい患者を出さないことは、別の仕事だ。
リョウコは前世が日本の保健所職員だった凡人枠転生者。剣も魔法も使えない。できるのは、名前を聞き、発症日を並べ、飲んだ水と食べたものを確認し、村の地図に赤い小石を置いていくことだけ。
だが、赤い小石は人を追っていなかった。
祟りでも、信仰の深さでもない。
追っていたのは、水路だった。
聖水は人を責めるためのものではない。
祈りを止める必要はない。
止めるべきは、毒水だ。
これは、奇跡を否定せず、奇跡だけに背負わせないための物語。
前世保健所職員のリョウコが、普通の疫学調査で感染源を追い、その正体が汚染源だと突き止める話。