あらすじ
数万年を生き、地獄を創り、世界を創り、悪魔さえ創った存在——《深淵の父》。
彼にはただ一つ、経験のないことがあった。「誰かと食卓を囲む」ことだ。
二十年前、街を呑んだスタンピードの中で。
人間だった頃の記憶をほとんど失くした彼の底から、たった一行だけが浮かんだ。
「子供は、大切にするもの」。
——気づけば彼は、災害が生んだ孤児達を抱え、孤児院の院長になっていた。
育て方は、完全に忘れている。だから教育はおかしい。
「最低限の護身術だ」と言って、魂の分割思考と魔力循環を教える院長に、子供達は今日もツッコむ。「最低限とは」。
卒業生は社会の第一線にいる。救命医に、官僚に、国民的アイドルに、人気攻略配信者。
魔界の住人は、近所でバイトをしている。
そして院長は、子供に怒られると世界を滅ぼすのを我慢する。
これは、最強の悪魔が世界を救う話ではない。
人間を忘れた怪物が、家族によって、もう一度人間に戻っていく物語。