あらすじ
水無瀬家には、ひとつの呪いがある。
その家の男が本気で愛した女を小説に書くと、女は少しずつ現実から遠ざかる。
足音が消え、足跡が残らなくなり、やがて男の書いた物語の中へ閉じ込められる。
白峰遠子は、家の箔を得るため、没落した旧家の悲恋作家・水無瀬紘明へ嫁ぐことになった。
婚礼前夜、ばあやは彼女に三つの禁忌を告げる。
一つ、あの男を本気で愛してはならない。
二つ、あの男に本気で愛されてはならない。
三つ、あの男の原稿に自分の名前が出て来たら、すぐに屋敷を去ること。
けれど、月下香の香る屋敷で出会った紘明は、遠子にどうしようもなく惹かれていく。
彼は遠子を愛し始める。
愛するほどに書きたくなる。
書けば彼女は自分のものになる。
しかし書けば、彼女は小説の中へ消えてしまう。
上品な官能と怪異が滲む、大正幻想恋愛譚。