あらすじ
母は、何かから逃げていた。
本当の名前を隠し、山奥の谷の出身であることを誰にも語らず、一枚の児童画だけを生涯手放さなかった。七本の黒い尾と、山の外へ走る白狐の絵を。
母の死後、|児童画解析士《じどうがかいせきし》・|真白奏《ましろかなで》のもとに届いた招待状。差出人は、|九瀬谷《くぜだに》アートヴィレッジ。かつて|尾喰村《おぐいむら》と呼ばれたその谷には、外へ逃げた者が消える「|九尾隠し《きゅうびかくし》」の伝承が残っていた。
集められたのは七人。|家系図修復師《かけいずしゅうふくし》、|遺影写真師《いえいしゃしんし》、|身体墨象家《しんたいぼくしょうか》、|骨格復元造形師《こっかくふくげんぞうけいし》——その肩書は、伝承の「七つの尾」と不気味に重なっていた。
霧が谷を閉ざし、通信が途絶えた翌朝。
七人の一人が、奥座敷で死体となって発見される。
遺体を囲んでいたのは、八本の黒い尾。
過去に消えたのが七人なら、なぜ尾は八本あるのか。
なぜ一本だけ筆圧が違うのか。
そしてなぜ、母はこの谷から逃げなければならなかったのか。
探偵・|御子柴透《みこしばとおる》は言う。
「犯人の九尾は、最初から一本足りない」
七十年前に尾をほどいた女がいた。
今、尾を絡めようとする男がいる。
そして奏は——逃げなかった。
閉ざされた芸術村で、現代アートと因習が交差する本格ミステリー。