あらすじ
結婚して三年。
義母から届くLINEは、いつも同じだった。
「水天宮の安産御守は本当にご利益があるのよ」
「男の子を授かるって評判の子宝神社があるの。今度、一緒に行きましょう」
「女は三十を過ぎると、身体が変わるのよ。綾乃さん、そろそろ本気で考えてちょうだい」
私は夫の佐藤直樹に訴えた。
「お義母さんに、毎日こんなものを送られるのはつらい」
けれど直樹はスマホから顔も上げず、面倒くさそうに言った。
「母さんは孫の顔が見たいだけだよ。そんなに神経質になるなよ」
結婚生活を守るため。
世間体のため。
佐藤家に嫁いだ女として「気が利かない嫁」だと言われないため。
私は、ずっと耐えてきた。
けれど、あの日。
キッチンの入口に立ったまま、私はリビングから聞こえる義母と義妹の会話を聞いてしまった。
「美緒が結婚したら、綾乃さんのマンションを空けてもらいなさい。新居にちょうどいいわ」
義妹の美緒が、甘えるような声で尋ねた。
「でも、お母さん。綾乃さんが嫌だって言ったら?」
義母は、鼻で笑った。
「言えるわけないでしょう。佐藤家に嫁いで三年、子どもひとり産めない女が、あんな立派なマンションを独り占めしているほうがおかしいのよ。直樹と結婚したんだから、あの部屋だっていずれ佐藤家のものよ」
私はキッチンの入口に立ったまま、洗ったばかりの湯飲みを握りしめていた。
指先が、少しずつ冷えていった。
その夜、私は直樹に聞いた。
「お義母さんが、私のマンションを美緒さんの新居にするって話していた。あなた、知っていたの?」
直樹は顔も上げなかった。
「家族なんだから、そんなに線を引かなくてもいいだろ。お前のものは佐藤家のものでもあるんだから」
私は彼を見つめて、ふっと笑った。
「そう。佐藤家のものを分けるのがそんなに好きなら、ちょうどいいわ」
「離婚協議書なら、もう用意してある」
「あなたには、この家を出ていってもらうだけ」